書評「なぜ、弱さを見せあえる組織が強いのか」

書評「なぜ、弱さを見せあえる組織が強いのか」

 

 

 

私の書評ツイートは以下です。

 

「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか」4.5点。素晴らしい名著。翻訳本であるが、翻訳の質も高い。企業はもちろん、教育にも使えそう。いわゆるフィードバックを受けることの大事さを説いている。知性にもIQとは違う3種類が示されている。買い。

 

 

 以下、気になる箇所を抜粋します。

 

最初の三週間、すべての新入社員が「パーソナル・リーダーシップ・ブートキャンプ(PLBC)」に参加する。豊富な経験と実績があって、上級幹部として中途採用された人も例外扱いしない。そのプログラムはまず、参加者が自分の弱点を学ぶことから始まる。同社では、個人の弱点を「バックハンド」と呼んでいる。元々はテニスの言葉だ。誰でも強み(=フォアハンド)をもっているが、テニスプレーヤーとして成功するためには、やりにくいこと、自然でないこと、苦手なこと、つまりバックハンドも磨かなくてはならない

 

同社では、心理面・人格面での長大な「性格のリスト」を使って社員のバックハンドを明らかにしてきた結果、ほとんどの人の弱点の根っこにあるのは、自信満々すぎること(同社では、そういう性質を「傲慢」と呼んでいる。ただし、それを問答無用に非難する意図はない)か、謙虚すぎること「不安」)かのいずれかだとわかった。

 

どちらか一方に偏りすぎれば、好ましい結果にならない。そこで、誰もがこうした点で「バランスの取れた人格」をはぐくみ続けるべきものとされている。入社したばかりのエンジニアからトップの共同創業者まで、すべてのメンバーがそれに取り組む。同社の社員は、全員がほかの全員のバッハンドを知っており、知らなければそれを尋ねるのが当たり前と考えられている。

 

バックハンドを克服するための取り組みとしては、たとえば傲慢すぎる人なら、一時間の会議で45分が過ぎるまで発言を自制する。逆に、不安すぎる人なら、会議で最初の15分以内に発言することを心がけるといった具合だ。こうして、バックハンドを克服する力を鍛え、深く根を張ったマインドセットを乗り越えるための訓練を積む。P37、38。

 

ウッディのように、人のパフォーマンスを高める「培養器」の性格をもつ会社で成功する人は、「向こう岸に行く」こと自体を旅の目的とは考えていない。向こう岸の、見晴らしがいい場所に立つことを目的にしている。苦労を味わいながら、自己認識と自己理解の能力を高めていこうとする。ブリッジウォーターのほとんどの社員にとっては、「痛み+内省(+「強力なコミュニティ」=) =進歩」なのである。P87。

 

この三社は、ビジネスの成功を生む投資だと信じて企業文化の構築に励んでいるが、ビジネスの成功と社員の成長を切り離して考えることはしない。これらの企業が発達指向の文化に大きな投資をしているのは、企業が個人の成長を促す理想的な場になりうる、そして個人の成長がやがてビジネスの成功をもたらす秘密兵器になりうるという揺るぎない信念があるからなのだ。

 

ネクスト・ジャンプ、デキュリオン、ブリッジウォーターという三つの発達指向型組織(DDO)では、ビジネスで卓越した成果を上げることと、会社の仕事を通じて人々が成長することという、二つの目標が完全に一体化している。具体的なアプローチは会社によって異なるが、興味深いことに、大切にしている要素は共通している。

 

ネクスト・ジャンプは、人を助けることを最優先事項と明確に位置づけ、他人の力になると同時に自分を成長させる方法としてコーチングに重きを置く。デキュリオンは、人々が個人として成長し、同時に会社がビジネスチャンスを十分につかめる環境をつくるために、新しいタイプの学習コミュニティ(成長コミュニティと言ったほうが適切かもしれないが)の力を高めようとしている。

 

そしてブリッジウォーターは、徹底して真実を追求し、どんなに不都合なことからも目を背けない。金融市場で成功するために必要というだけでなく、それが個人の成長を実現し、自社の企業文化を貫く道だと考えているのだ。この三社はいずれも、一般的な組織における最も基本的な約束事を大胆に覆している。その約束事とは、私的なことと公的なことは分離すべし、という考え方である。

 

本章の冒頭で紹介したブレネー・ブラウンの言葉に即して言えば、一般的な組織は、自分の弱さと向き合わず、弱さをもっている人と付き合おうとしない人間のようなものだ。そのような組織で働く人たちも、不完全さと弱さと恥と自信のなさは、仕事の世界から遠ざけておくべきだという思い込みをいだいている。

 

つまり、こう言っているに等しい。「弱さがときどき職場に入り込むことがどうしても避けられないなら、その際のルールを決めておく必要がある。本人は、ほかの社員のいない場所でのみ弱さを見せるようにし、なるべく早くそれを解決すること。一方、まわりの人たちは、見聞きしたことを胸の内にしまい、礼儀として、何事もなかったように振る舞うこと」。P88、89。

 

大人の知性の3つの段階。

知性のレベルが上がるごとと時間がかかることの2つの要因によって、3つの知性があります。以下、抜粋です。

 

環境順応型知性。チームプレーヤー。忠実な部下。順応。指示待ち。依存。

周囲からどのように見られ、どのような役割を期待されるかによって、自己が形成される。帰属意識をいだく対象に従い、その対象に忠実に行動することを通じて、一つの自我を形成する。自己意識は、主としてほかの人間、もしくは考え方や価値観の流派、あるいはその両方との関係という形で表現される。

 

自己主導型知性。課題設定。導くために学ぶリーダー。自分なりの羅針盤と視点。問題解決指向。自律性。

周囲の環境を客観的に見ることにより、内的な判断基準(自分自身の価値基準)を確立し、それに基づいて、まわりの期待について判断し、選択をおこなえる。自分自身の価値観やイデオロギー、行動規範に従い、それに基づいて自律的に行動し、自分の立場を鮮明にし、自分になにができるかを決め、自我の境界を設定・管理する。こうしたことを通じて、一つの自我を形成する。

 

自己変容型知性。メタリーダー。学ぶために導くリーダー。複数の視点と矛盾の受け入れ。問題発見指向。相互依存。 

みずからのイデオロギーと価値基準を客観的に見て、その限界を検討できる。どのようなシステムや自然発生的秩序もなんらかの形で断片的、ないし不完全なものだと理解している。これ以前の知的発達段階の人たちよりも、矛盾や対立を受け入れることができ、一つのシステムをすべての場面に適用せず、複数のシステムを保持しようとする。自分のなかで整合性がとれていても、その状態が自分のすべてである、あるいは人間として完成している、ということは違うと認識し、一つの自我を形成する。P97とP99。

 

誤解しないでほしいのだが、ここで言う知性のレベル(IQの値など)とは違う。環境順応型知性をもつ人の間でも、IQの値は大きく異なる場合がある。そのなかには、きわめて高いIQの持ち主もいる。P100。

 

仕事ができる人の知性。

情報の流れという、組織生活できわめて重要な要素に着目して、三段階の知性の違いを論じることにより、DDOがどのように個人の発達を支援しているか、DDOという組織の行動(コミュニティと慣行)があらゆる知的発達段階の人たちにどのような作用を及ぼすかも明らかになっただろう。

 

知性のレベルが高まることの意義も理解できたに違いない。それぞれの知性の段階は、理論上、前の段階より優れている。前の段階の知的機能に加えて、新たな機能をもつようになるからだ。人は新しい段階に進むたびに、前の段階を超越し、しかも前の段階の機能を保持し続けるのである。

 

略。端的に言えば、知性のレベルが高い人物は、レベルが低い人物より仕事ができるのだ。略。しかし、これは多くの実験により裏付けられていることだ。多くの研究は、知性のレベルと客観的な仕事の能力の間に相関関係を見いだしている。略。要するに、知性のレベルが高くなると、複雑な世界への対応能力も高まるのだ。P108、109、110。

 

本書で言う知性を測る方法として、精密で信頼性があり、広く用いられているものが二つある(明らかに、IQテストではそれを測れない。IQテストの結果と知性の相関関係はきわめて薄い。たとえばIQが125以上ある人のなかには、知性が自己変容型に達している人もいれば、自己主導型や環境順応型にとどまっている人もいる)。

 

その二つの方法とは、ワシントン大学文章完成テスト(WUSCT)主体客体インタビュー(SOI)である。

 

略。要するに、人々に要求される知性のレベルと実際に到達しているレベルの間には、きわめて大きな落差があるのだ。ほとんどの働き手は自己主導型知性の段階に達しておらず、ほとんどのリーダーは自己主導型より高いレベルの知性をもっていない

 

略。図2−5にあるように、「将来有望」と評価されているミドルマネジャーのおよそ半分しか自己主導型知性に到達しておらず(このレベルに達しているミドルマネジャーは、そうでないミドルマナジャーより仕事の能力が高い)、それぞれの業界のトップに立つ21社のCEOのなかで自己主導型より高いレベルに到達している人はわずか4人にすぎないのである(そのレベルに達しているCEOは、そうでないCEOより仕事の能力が高い)。 P114~116。

 

 発達指向型組織(DDO)というコンセプトの構造を論じるうえでは、深さ、広さ、高さという三つの軸から考えるのが有効だと、私たちは考えている。人の発達を後押しするコミュニティー(本書では象徴的に「ホーム」と呼ぶ)、発達を実現するための慣行((グルーヴ)」、そして発達への強い欲求「エッジ」)~~この3つの軸を一望し、その相互作用を見れば、DDOが一つの動的なシステムであることが見えてくる。(図3−1参照)。P126。

 

P127の図は本書をお読みください。

 

DDOのエッジ、グルーヴ、ホームが互いに支え合う関係にあると言われれば、当然頭に浮かぶ問いがある。「DDOを維持するために、これらの条件がそろうべきなのはわかった。では、これからDDOを築こうとする場合は、どこから手をつければいいのか?まず慣行を確立すべきなのか?それとも、コミュニティ意識をはぐくむのが先なのか?あるいは、発達への強い意欲をもつことが先決なのか?」。

 

この問いには、あとの章で答えていきたい。差し当たりは、三つの要素(そして、それらを具体化した12の特徴)が一体になることにより、手ごわい仕事を通じて成長を目指すための強力な場がつくり出されるのだと理解しておいてほしい。P172、173。

 

ここまで論じてきた二つの力学が互いに助長し合っていることは、容易に想像できるだろう。人々は、職場である取引をしているのだ。「私はきみを直接批判することはしない。だから、きみも私に対してそうしてほしい。きみが自分をよく見せるためにやっていることには口を挟まないでおく。だから、きみも私のやることに口を出さないでくれ」という取引である。

 

この結果として、誰もが自由に自分の弱点を隠すことができ、他人の弱点については、本人のいないところでなら好きなだけ陰口を言ってもいい、という状況が生まれている。ブリッジウォーターで実現していることを見れば、世の大半の人が人間の性質を見くびっていることがよくわかる。

 

同僚たちが互いの陰口を言うのは人間の本性だ、と思っている人は多い。自分の弱点を隠し、長所だけをアピールしたがるのも、人間の当たり前の性質だという。ブリッジウォーターで働きたいとは思わない、と言うハーバード大学の学生にその理由を尋ねると、こんな言葉が返ってきた。

 

「職場の同僚たちには、実際より優れた人間だと思われたい。本当の能力なんて知られたくない!それが人間っていうものでしょ?」。しかし、その「人間の本性」が人々を消耗させ、本来なら仕事に注がれるエネルギーを浪費させているとしたら、どうだろう?

 

もし露骨に真実を偽る(自分の弱点を隠す)ことと、自分の信じる正義に反する行為を平然とおこなう(他人の悪口を言う)ことが人間のごく当然の性質だというなら、ブリッジウォーターやそのほかのDDOで働く人たちは、人間でないことになってしまう。どれだけ多くの「変わり種」が登場すれば、社会は人間の性質についての常識を改めるのか? P256、257。

 

三つの企業は、さまざまな課題を解決するための新しい有効な方法を考案してきた。具体的には、社員の退職率を下げる、利益を増やす、社員にコーチングを提供する、学習に前向きな姿勢をはぐくむ、昇進スピードを速める、率直なコミュニケーションを実現する、うまく権限委譲をおこなう、経営合理化を成功させる、責任を引き受ける、政治的工作や印象操作や陰口を減らす、社員が業務をおこなわない「休止時間」を減らす、社員のやる気のなさを解消する、社内で誰も経験のない危機を予見してうまく乗り切る、誰も経験のない新たな可能性を切り開いてそのチャンスをものにする、といった課題に対処している。

 

ビジネスの成功にいたる道はいくつもあるが、企業はどの道を選ぶかを決める前に、「いま自分たちが直面している課題は、主に技術的な課題か、それとも主に適応を要する課題か?」と、みずからに問いかけるべきだろう。この両者を区別することはきわめて重要だ。ハーバード大学のロナルド・ハイフェッツによれば、技術的な課題とは、新しいスキルを獲得することで対処できる課題のことだ。

 

コンピュータに新しいアプリやファイルをインストールするようなものと思えばいい。それに対し、適応を要する課題とは、スキルだけでなく、マインドセットを変えることも要求される課題のことだ。この種の課題に対処するためには、言ってみれば、コンピュータのOS(オペレーティングシステム)を変更しなくてはならない。本書で用いてきた言葉を使えば、発達(成長)することが求められるのだ。

 

もし、あなたのビジネスが直面している課題が主として技術的な課題なら、成功にいたる道は無数にある。そのなかのどの道を選んでも、DDOを目指す道より容易だろう。しかし、ハイフェッツによれば、組織とリーダーが最もよく犯す過ちは、適応を要する課題に技術的な方法で対処しようとすることだ

 

VUCA(不安定、不確実、複雑、曖昧)の世界で企業が直面する課題の大半が適応を要するものだとしたら、どうなるか?もしそうなら、人の発達に関心があってもなくても、ほとんどの企業は、適応を要する課題に対処することを考えなくてはならない。DDOになるとは、そのために必要な変化を遂げることだと、私たちは考えている。

 

大多数の企業がまだプロペラエンジンで空を飛んでいるのを尻目に、適応を要する課題に対処するためのジェットエンジンを積んだ企業文化をもっている企業、それがDDOなのだ。DDOを特殊な存在とみなし、ビジネスの発展と人の成長を一体化することに強い情熱をもったリーダーの下ではじめて実現するものだ、と決めつけるべきではない。

 

もしかすると、DDOは時代の変化にいち早く適応しているだけで、いま突飛に見えている道は、やがて誰もが通る道になる可能性もある。企業や非営利組織、政府機関、その他の公的組織(学校や病院など)の大半がDDOの特徴のすべてを備える日は、さすがに来ないかもしれない。

 

しかし、20世紀に、児童労働がなく、週当たりの労働時間、職場の安定性、医療保険や年金などの面で健全な職場が当たり前となったように、今世紀は、人の内面の健全性を重んじる職場が当たり前になり、一人ひとりの働き手と組織がその恩恵を受けられるようになっても不思議でない。P276、277。

 

これは私が共感したポイントのほんの一部であり、他にもたくさんの良い点が書かれているので、「買い」の一冊であり、熟読して身につけるべき名著だと思います。

 

2700円と高いですがそれだけの価値がある本です。マネジメントの新しいやり方として、新機軸を作り出しており、素晴らしいと思います。

 

以上です。

 

参考・引用文献。