「慶應KO物語」

短編小説です。

 

高校に入学し、青春を謳歌しようとしていた主人公大沢太郎と友人の高橋

 

友人高橋のオートバイに大沢は乗せてもらい、ドライブをしていた。

トラックとぶつかった。

いや、ぶつかっていなかった。

すれ違っただけだった。

 

「ひやりとするぜ」大沢は、つかの間の休日で事故に遭わなくて良かったと思った。

ドライブが終わり、またいつもの単調な生活が始まろうとしていた。

ただでさえ、単調な毎日で、やけくそでドライブしていたのだから。

 

大沢は低レベルの高校に入学したので、大沢は大学進学をする気はさらさらなかった。

親も低収入で大沢の大学費用を賄える状態ではない。

大沢は漠然と高校を出たら働くものと思っていた。

 

世間では負け組み・格差が広がったと言われていた。

そんな折、大沢はインターネットで気軽に「負け組み・格差」と試しに打ち込んでみた。

 

たくさんのサイトが見つかった。大沢は暇つぶしに片っ端から見て回った。

一つ面白いサイトを発見した。

 

「格差を乗り越える慶應KO法」という駄洒落と思えるようなサイトだった。

 

慶應をKOか…」大沢は微笑をもらした。

興味本位に見てみることにした。

 

私にアクセスしてくだされば、慶應をKOする方法を教えますと書いてあった。

ただし、親が低収入で大学の費用がない家庭限定とのことだった。

さらに高校1年生限定だった。(高校2年生はダメだった)

大沢は自分にぴったりだと思い、試しに申し込んでみることにした。

 

すると、「あなたは本当に慶應大学に受かりたいですか?」と聞いてきた。

インターネットでのメールのやり取りだ。

軽い気持ちで大沢は「はい」と送った。

 

サイトの主人は「では、現在格差が広がっていることはご存知ですか?」と聞いてきた。

大沢は、「まぁ、なんとなく」と答えた。

サイトの主人は「実は、今の日本においては親の年収により子供の将来が決まるという教育格差が広がっているのです。裕福な家庭は子供に多大な教育費をかけて、子供を一流大学に行かせることも可能。それに対して、貧乏な家庭は、子供に教育費をかけられず、また子供も大学への意識が育たずに一流大学へ入学することができない。つまり、親の年収によって子供の将来が決まる、階層が固定化しているのです」と言った。

 

「へぇー」大沢は日本がそんな状態だったとは知らなかった。

「じゃぁ、俺の親は低収入だから、俺も大学には行けませんね」と大沢は答えた。  

「そんな家庭を救うのが私の役割だと思っています」とサイトの主人は答えた。

「教育格差を乗り越えて、貧乏な家庭からでも一流大学(慶應大学)へ行けるようにするのが私の仕事です」サイトの主人は言い切った。

 

大沢は、「こんな俺でも慶應大学に行けるんですか?」半分期待して半分無理だろうという気持ちで質問した。

サイトの主人は「大丈夫です。ただしリスクがあります」

「それは、高校を中退することです」

「え、高校を中退?」

「そうです。高校を中退して、バイトしながら、独学で慶應大学を目指すのです」

「え?」大沢は絶句した。

 

「高校を中退することはリスクを伴いますが、利点もあります。自由に時間を使えるという点です。もし、大学に受からなかったら、中卒になってしまいますから、かなりの冒険ではあります。しかし、3流高校に入ってしまった場合、そこから慶應大学に受かるのはかなり難しいです。高校を中退する勇気はありますか?」

「ちょっと待ってください。高校を中退して確実に慶應大学に受かる保証はあるんですか?」

サイトの主人は「絶対ということはありません。ただし、高確率で受かることは可能です。頑張り次第です。」

大沢はさらに質問した。 「教えてくれる先生もいませんよ。独学で可能なのですか?」

サイトの主人は言った。

「勉強というものは本来、1人で行う孤独な作業なのです。いくら名講師が教えても、生徒がやる気がなかったら学力は見につきません。それに高校の教師で名教師というのはそんなに多くはないのです。3流高校なら、なおさらです。だから、独学でOKです。いや、むしろ独学の方がメリットが多いです」

 

大沢は質問した。 「例えば?」

「学校や予備校では予習・授業・復習の3ステップですが、独学の場合、予習がいらなくて独習・復習の2ステップで済みます。しかも自分のペースでできます。授業の場合は分からないところがあっても途中で聞けないケースがあります。大教室で一斉授業の場合は」さらに続ける。

「独習は分からなければ、じっくりと進んで、分かるところは飛ばしてという風に自由自在です。それに今の大学受験参考書は大変優れているので、下手な授業より参考書の方がダントツに効果的です」

 

大沢は「へぇー。そうなんだ」と感心した。

他にもいろいろと質問して、大沢は慶應大学を本気で目指してみようと思うようになった。

高校を中退して、バイトをして大学の学費を稼ぐ。

貧困層が這い上がるには、バイトによる学費捻出が必要なのだ。

高卒認定試験も受ける必要がある。

青春は犠牲にしなければならなかったが、一流大学への切符が手に入るなら、仕方がない。

何より格差を乗り越えるにはこの方法しかないということが分かった。

 

大沢は「俺の人生、変えてみせる」と決意を新たにした。

そして、サイトの主人の指示通りに勉強方法を身につけ、参考書も買って勉強した。

高1の終わり頃に中退したので、2年間しかなかったが、必死にバイトに勉強に精をだした。

そして、遂に慶應大学に合格することができた。

大沢は感激のあまり涙をこぼした。

「ああ、俺の人生はこれから変わる」

そしてサイトの主人に御礼を言おうと、インターネットに接続したところ、つながらない。

「サイトがなくなってる!」 大沢は絶句した。

今まで無料でいろいろと教えてくれた、サイトの主人。

その恩人に連絡を取ることができない。

ここで大沢の頭の中に疑問が沸いてきた。

「いったいサイトの主人は何者なのだ」と。

こんなに親切に俺に教えてくれた人はいったいどんな人物なのだろう?

ぜひ会って御礼を言いたかったが、叶わないまま、時が過ぎた。

大沢は慶應大学生として、これから生きていく。

 

そのとき、「太郎、しっかりしなさい!大丈夫?」と声が聞こえてきた。

はっと目覚めるとそこは病室だった。

「ああ、良かった。太郎はもう死んでいるかと思った」と大沢の母親が言っているのが見えた。

「ここはどこ?あれ、何で俺はこんなところにいるの?」と大沢は言った。

「何言ってるの?あなたはバイクで走っている最中にトラックと接触事故を起こして、病院に運ばれたのよ」

「ああ、そうだったんだ」

「ところで、高橋は無事?」

「高橋さんは無事よ。あなたの方が危なかったわよ。意識不明で」

「そうか。」大沢は答えた。

「せっかく、慶應大学に入ってこれからっていう時なんだから、もっと身体を大事にしてね」 母親が言った。

「ああ、俺は慶應生だったな」

「そうよ。高校も一流高校に入り、エスカレート式で合格したんだからね」

「え!俺は高校中退したんじゃなかったっけ?」

「何、寝ぼけたこと言っているのよ。あなたは、一流中学、一流高校、一流大学と無事に通過したじゃない?」

「え、というとサイトの主人は?」

「サイトの主人って誰?」

「いや、何でもない。」大沢は答えた。

大沢は病室を出て家に帰った後も何回も考え込んだ。

俺は一流中学・一流高校・慶應大学と進んできたのか。

というと、高校中退はしてないということだな。

ならば、あれは夢だったのか。

サイトの主人も幻?

だが、この夢からはいくつもの教訓を引き出すことができると大沢は気付いた。

格差に苦しんでいる家庭は多いだろう。

俺が格差を乗り越える方法を世の中に広めよう。

俺がサイトの主人になろう。

 

以上。

 

2006年に書いた話です。もう11年ぐらい前ですね。ほぼ、当時の文章のままです。

高校中退を万人に勧めるわけではないとも記しておきます。3流以下の高校に入り、しかも家庭が貧困層なら、このやり方しか這い上がる道はないと思います。

しかし、やる気と素質が必要です。

 

聴覚派の人は参考書で独学は難しいという欠点もあります。それらを割り引いてもらえればと思います。聴覚派の人は参考書より、N予備校や、受験サプリなどの講義系がいいかもしれませんね。大学進学以外なら、IT系で独学で這い上がる道もあるかもしれません。

 

武田塾は2006年創業という話も聞きます。

私の方がアイデアが先だった可能性もあります。

ほぼ同時期に参考書で独学の武田塾ができたということです。

これは偶然なのかなー。

 

以上です。