「日本怖いあるかもしれない物語」

短編小説です。

 

時高中信(じこうちゅうしん)は、今日も、自分の会社で怒鳴り声を上げていた。

 

「おい、今月の目標は達成できるんだろうな?達成できなかったら、どうなるか分かっているよな」

 

従業員の本木は、「はい。何とかします。。。」と怯えた声で、返事をしていた。

 

時高は、ある中小企業を経営しており、いわゆるブラック企業と呼ばれる部類の会社の社長である。

 

本木は、この会社では、できない社員であり、上司のパワハラ気味の恫喝(どうかつ)に、何とか耐えている毎日であった。

 

本木は「自分は本当にできない人間だ。かといって、他に転職もできない。この会社でやっていくしかないのかな」と不安げに思考していた。

 

 

本木の友人の他田則太(ただのりた)は、アドバイスを送っていた。他田は、本木とは違って、ホワイト企業に勤めている。

 

本木はIT系であり、他田は縁故を使ったTV局の会社である。

 

他田の親に力があるので、コネを使って入社したのだ。

 

他田は楽をしたい人間であり、誰かの力を使って生きるのが良いと考えている。

 

そして、友人の本木がブラック企業で喘いでいるのを見て、「本木は、可哀な奴だ。といっても、俺が助ける義理はない」と思っていた。

 

1年後、ついに本木の精神が折れた。時高のパワハラが原因だ。

 

時高は、自分にメリットがあり、ある程度優秀な奴以外、必要ないと考えていた。

 

本木は優秀ではなかったので、パワハラをして、事実上、解雇に追い込んだのだ。

 

本木は、精神科に通うまでになった。

 

時高は、結婚して、美人の奥さんと娘がおり、娘はもう中学生になっていた。

 

ある日の時高家でのやりとり。

 

時高は、声を荒げて、奥さんに言った。

 

「世の中、できる奴とできない奴がいる。できる奴と付き合い、できない奴は使い捨てるか、解雇しないと、世の中の経営者は務まらない。この前も、あるできない社員を解雇した。できない奴は、努力が足りないんだよな」

 

奥さんは、時高に対して「そんなことを言うものじゃないですよ。あなたは気性が荒いから。ほどほどにしてね」

 

時高は「わはは。ま、もっと稼いで、おまえにももっと贅沢させてやるからな。」

 

娘の頭もぽんぽんと叩きながら、「父さんはもっと稼ぐからな。おまえのためだ」

となでなでした。

 

娘は「父さんが頑張っているのは知ってるけど、もう少し他人に優しくしてあげてもいいんじゃない?」と笑いながら、言った。

 

時高は、「世の中、競争社会であり、弱者と強者に分かれるんだ。甘くないんだ。おまえは社会の厳しさをわかっておらん」と言って、ぷいと背中を向いて、立ち去っていった。

 

時高の奥さんと娘は、スキー旅行に行くことになった。

 

時高は、見送ってから、会社に向かった。

 

そんな折、TVでニュースを見ていたら、「スキーバス転落!負傷者、死傷者不明」という緊急ニュースが放送された。

 

時高は、「ん?スキーバス?あれ、このバスは、うちの奥さんと娘が乗っているバスじゃないのか?」とうろたえながら、つぶやいていた。

 

そして、後日、そのスキーバスは、時高の奥さんと娘が乗っていたことが判明した。

 

さらに、そのスキーバスの運転手がなんと、一年前に解雇した本木だったのだ。

 

本木は、解雇された後、精神科で治療を受けてから、復帰し、バスの運転手をやっていた最中のことだった。

 

本木が死んだと聞いて、友人の他田はひどく驚いた。

 

スキーバスか。他田は、「庶民はこれだから、大変だな。俺は人脈を使い、有利に生きてく」と決意していた。

 

 他田は、自分の力はたいしたことなく、親の力や人の力を使うのが上手かった。

 

いわゆる、フリーライダー(ただ乗り)精神でやってきた。

 

自分は怠けていても、誰かがカバーしてくれると心底、思っていた。

 

俺が怠けたぐらいで、日本も、会社も、特に影響はないだろうと思っていた。

 

しかし、事態は一変した。

 

他田のささいなミスが、大事になり、TV局が謝罪行脚になったのだ。

 

親も、かんかんに怒り、他田は「俺がミスしたぐらいで、他の人にここまで影響があるとは」と驚いていた。

 

しかし、そんな事態になっても、他田はそこまで反省せず、「ま、今回はたまたまだ。ミスだけはしないように気をつけよう」と考えるにとどまった。

 

 そんな折り、他田はTV局のロケで、海外の貧困国のスラム街の取材に同行することになった。

 

「なんで、俺が、貧困国なんかに。会社のあてつけか?」と思っていたが、仕事だと思い、仕方なくついていった。

 

そして、スラム街の取材をしている最中、急に、変な男がナイフを持って、襲ってきた。

 

TV局のスタッフは、皆、逃げていった。

 

他田は逃げ遅れた。

 

「ああ、スタッフは皆、逃げていきやがった」と叫んだ。

 

ナイフの男は、他田に襲いかかった。

 

周りの聴衆は、誰も助けてくれない。

 

外国人が襲われているという感じで、遠くから眺めている。

 

他田は叫んだ。「なんで、誰も助けてくれないんだ!」と。

 

「日本にいた頃は、周りは助けてもらえたのに、ここでは誰も助けてくれないのか。結局、自分の環境が恵まれていただけで、環境が変われば誰も助けてくれない」と悟ったが、時すでに遅し。

 

周りの住民達は「隣の奴が助けるだろう。私が助けなくても、他の人が助けるだろう。私は関係ない」と皆が、思っていた。

 

そうこうしているうちに、ナイフの男の一刺しで他田は意識を失った。

 

 

 

おしまい。